《ことばの交差点》30
- 矢野修三
- 7月22日
- 読了時間: 3分
更新日:8月6日
日加トゥデイ 2025年7月号 掲載
☆ 「伯父」か「叔父」か、それが問題だ ?
いきなりですが、「おじが二人います」と聞いて、「伯父」か「叔父」か、どちらの漢字を思い浮かべますか?
実は、日本語教師養成講座を受講した卒業生から、連絡が入った。「日本にいる「おじ」が亡くなったので、急に日本に行くことになりました」。さらに、「おじの漢字は『伯父』と『叔父』と二つありますが、その使い分け、日本ではすごく大事ですか?」、である。
なるほど、とても気になるのであろう。彼女は中学の途中で、家族とバンクーバーに移住してきたので、こんな細かなことなど分からないのは当たり前。でも今では、バンクーバーで日本語を教えている立派な先生である。
確かに、「おじ」の漢字は「伯父」と「叔父」があり、ややこしい。会話では同じ発音だから、問題ないが、メールなどに書く場合は、どっちを書けばいいか、一瞬迷ってしまう。さらに、親族以外の一般の年配男性の呼称として「小父さん」もあり、複雑である。
でも、これは漢字の意味を理解すれば簡単。「伯」は年長の人を、「叔」は年少や
若い人を表わす漢字なので、本人から見て、父や母の兄が「伯父」で、弟が「叔父」で
ある。これは「おば」の「伯母」と「叔母」も同じ関係。つまり父や母より、
年上か年下かの違いである。
そこで、この使い分けについて、いろいろな人に聞いてみた。二つあるのは知って
いるが、違いは微妙・・・、ちゃんと学んでいない人も多く、さらに、父方か母方かの違いかと、など様々な意見があり、世代や個人環境によっても異なる感じで、致し方なし。
実際のところ、履歴書などの公式文書でもない限り、「伯父」と「叔父」の漢字を書き分けの場面などほとんどない。あえて漢字書きにすれば、「叔父」に。理由は「おじ」とスマホなどに打ち込むと「叔父」が最初に出てくるから・・・。なるほど!
だが、中国では、驚くほど詳細な親族名称があり、「年齢の上下」はもちろん、
「父方か母方か」も厳密に区別されており、とても複雑で大変とのこと。
日本でも、昭和の初期ごろまでは、両方ちゃんと分類されていたようだが、時代と
ともに、だんだん変化し、「父方や母方」の区別はさりげなく、消えてしまい、
「伯父」と「叔父」の年上、年下の使い分けだけに。さらに、昨今は形式にとらわれず、
簡単で便利な、ひらがなの「おじ」で済ませてしまう傾向にある。
正に「言葉は時代とともに・・・」の一例であろう。
でも、きちんと学んだ年配の方、その本人宛のメールなどは「伯父」か「叔父」か、
注意しなければ失礼になる。無論、新聞記事などはちゃんと明記しており、この違いが
分かれば、小説など読む際にも、登場人物の人間関係がよく分り、役立つはずである。
その点、英語はあっさりしている。単に「uncle」であり、よほどの理由がない限り、
年上か年下など、必要もなければ、区別もしないとのこと。
シェイクスピアの「ハムレット」で、ハムレット王子が「叔父」に復讐する。そして
「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」と悩むが、もし彼がこれを読んだら、
迷わず「伯父か叔父か、そんなの、問題じゃない」と、のたまうであろう。
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