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《ことばの交差点》27

  • 執筆者の写真: 矢野修三
    矢野修三
  • 2025年4月22日
  • 読了時間: 3分

更新日:2025年8月6日

                   日加トゥデイ 4月号 掲載


☆ 漢字「生」と「死」を見つめて !

 

 昨年の暮れから春の訪れを迎えるころに、日本でそしてバンクーバーで、とても親しい

友人や先輩方が旅立ってしまった。大切な知友との別れが短期間に1度ならず、2度、3度も、ぽっかり心に大きな穴が空いてしまい、その寂しさを埋めるすべもなし。でも、いつか必ず来る別れであり、痛恨の極みだが、定めと受け入れねば。


 春到来とともに、新しい命が芽吹き始め、そこはかとなく「生」と「死」についていろいろ思いを巡らせる時間を持った。そして、漢字の「生」と「死」、特に「死」の読み方について思いがけないことに気づいてびっくり。今まで知らなかったとは、いと恥ずかしきことなり。


 まず、日本語教師として、漢字を教えるのは一苦労。多くの生徒はなかなか馴染めない。理由は文字が複雑で、しかも読み方が複数あること。でも、漢字には基本的に「音読み」(中国由来の読み方)と「訓読み」(日本独自の読み方)があるので、致し方なく、頑張って、と言わざるを得ない。 


 特に、「生」は読み方が漢字の中では、ずば抜けて多くあり、生徒は大変だが、先生も

難儀。音読みでも「セイ」と「ショウ」があり、訓読みは「生(い)きる」「生(う)まれる」「生(は)える」さらに「生(なま)ビール」や「酒の生(き)一本」「芝生(ふ)」などと数多くあり、人の名前(羽生・麻生)や地名(桐生・相生)などを入れると、数えるのが大変なほどあるとのこと。


 一方、「死」は・・・。基本的に音読みと訓読みとは異なるのが当たり前だが、「死別」と「死に別れ」をじっと見つめていたら、音読みの「しべつ」と訓読みの「しにわかれ」。あれ、ひょっとして・・・、思わず辞書を手にして驚いた。音読みも訓読みも同じ「シ・し」であり、読み方はたったの一つである。「生」と比べると雲泥の差。うーん、今まで日本語教師として、音読みと訓読みが同じだなんて考えたこともなく、びっくり。そして赤面の至り。


 そこで、息抜きがてら、こんな思いを巡らした。漢字の神さまはなかなか粋である。

生き方は人によってそれぞれ異なり、人生いろいろ、人間の数だけ生き方はある。従って、「生」という漢字には、たくさんの読み方を作ったのではなかろうか・・・。


 しかし「死」は、どこかの大統領やプロ野球の花形選手であろうが、一介のしがない教師であろうが、いかなる人間でもこの世を去るときは、分け隔てなく、全て同じように、やってくる。だから「死」の読み方はたった一つしか作らなかった。流石、漢字の神さま、すごい、かっこいい、cool。こんな悟りの境地に入ったような物思いにふけりながら、思わずニヤリとしてしまった。


 現実に戻り、確かに「生」は読み方が多々あり難しいが、漢字に興味のある超上級者には、こんな例文を作って、遊びながら教えている。

「弥生3月、野生の芝生の上で、同じ年生まれの、ちょっと生意気な麻生君と一緒に、

生ビールや生一本を飲みながら、余生を楽しんでいたら、生憎雨が・・・、こん畜生」。

こんな文、生徒には何の役にも立たないが、かなり喜んでくれるので、先生として生き甲斐を感じる。





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