≪ことばの交差点≫ 42
- 矢野修三

- 16 時間前
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日加トゥデイ 2026年7月号 掲載
☆ 「弁護士 と 「弁当」
7月文月も後半に入り、夏本番。日本は猛暑、酷暑。それに比べて、バンクーバーの夏は誠に素晴らしく、至福のときを過ごしていたのだが・・・。思いもよらない、ちょっと笑いを誘う、難儀な質問が舞い込んできた。
先月号の弁護士に関する「本の紹介」の記事を読んだ日本語上級者からの驚きの質問。
なぜ、「弁護士」と「弁当」の「弁」は、同じ漢字なんですか? である。
えー、こんな質問、長く日本語教師をしているが、初めてで、びっくり仰天 でも確かに言われてみれば不思議である。なかなか「弁護士」と「弁当」の共通点など思いつかず、言葉に詰まってしまった。「うーん、ごめん 調べるね」と、恥ずかしながら謝らざるを得なかった。
そこでまず、「弁当」の語源が知りたくなり、早速調べてみた。諸説あるようだが、中国語の「便当」という言葉に由来するというのが有力らしい。中国語ではこの「便当」は「都合がよい」や「便利である」という意味で、これが日本に伝わり、「弁当」という漢字が当てられたようである。加えて、この「弁当」を日本式に「持ち運びする便利な食べ物」として使うようになったとのこと。
そして、江戸時代ごろから、「弁当」を持って、お花見などの行楽を楽しむようになり、さらに、芝居の合間 (幕の内) に食べる弁当として、「幕の内弁当」なども大いにもてはやされ、いわゆる日本特有のお弁当文化が花開いたようである。なるほど。
一方、弁護士の「弁」だが、昔は「辯」という漢字か使われており「辯護士」であった。この「辯」の意味は「言葉で治め、正す」という意味とのこと。人々の権利や利益を守る法律の専門家、まさしく、「辯護士」である。
しかし戦後1946年の当用漢字制定に伴い、この「辯」は、画数が複雑なので、簡単な「弁」に変えられてしまった。ほかにも「ベン」と読み、複雑な漢字、例えば「辨償」が「弁償」に、「花瓣」が「花弁」にと、すべてこの「弁」に統一されてしまった。
それゆえ、そもそも「弁護士」と「弁当」の「弁」は、直接関係なし。
さらに「弁」にはたくさんの意味があるのは当たり前なのである。うーん、大いに納得し、何となくホッとした。
とはいえ、「もともとは別々の漢字でした」。こんな説明では、日本語学習者はあまり実感がわかず、面白くないであろう。
そこで、この「弁」には大きな意味で、「うまくまとめる」という意味があり、「弁護士」は言葉を用いて人と人の間をまとめるのが仕事であり、「弁当」はご飯やおかずを一つの箱の中にうまくまとめること。どちらも「まとめる」という点で仲間だよ・・・。少し面白味を出して、詭弁にならないように、こんな説明をしようと意気込んでいる。
そんなことを考えていたら、「弁慶」はなぜ「弁」なのだろう・・・、余計な疑問が頭もたげた。そして、思わず五条大橋の上で、弁慶か牛若丸に京都弁で弁解しながら、手作り弁当を差し出す。こんなシーンを思い浮かべてしまった。失礼しました。
生徒の思わぬ質問から、「弁」に関するいろいろな知識を得ることができ、改めて教師冥利に尽きる思いである。でも日本語教師として、この「弁」はなかなか面白いが、すごく面倒な漢字だと分かったので、もう「弁」に関する質問は「勘弁」 願いたい。

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