外から見る日本語 233
- 矢野修三

- 2021年10月29日
- 読了時間: 3分
2021年10月 バンクーバー新報掲載

☆「行くです」はまだダメ・・・!
やっと国内旅行は行けるようになったが、海外旅行となるとまだ
いろいろ大変である。日本に行きたいけど、簡単に行けず困って
いる友人や生徒もたくさんおり、口から愚痴の一つも飛び出す。「口も濁れば愚痴になる」、こんな日本行きのことを考えて
いたら、日本語上級者の質問を思い出した。「行きます」の否定形は「行きません」と習いましたが、「行かないです」もよく聞きます。この二つはどんな
違いがありますか、である。
確かに、日本語教育では「行きます」の否定形は「行きません」であり、
「行かないです」は教えていない。しかし、日本ではだいぶ前から若い人に限らず多くの
人がこの表現を使っており、テレビドラマなどでもよく登場している。
これは古くからの「です・ます」の文法上の大きな「変化・ゆれ」である。原則として、名詞に「です」、形容詞と動詞は「ます」が決まりだった。名詞は「学生です」であり、
形容詞の「おいしい」や「楽しい」などの丁寧表現は「おいしゅうございます」や
「楽しゅうございます」と言っていたとのこと。はるか昔、子供のときに聞いた記憶あり。
しかし、この表現は言いにくいし、馴染めないと当時の若者は感じたのであろう。
そこで形容詞にも「です」を付ける簡単な言い方、「おいしいです」や「暑いです」などがどんどん広まり、1952年(昭和27年)の国語審議会で、簡素な表現として認められたので
ある。それゆえ、歴史もそんなに古くなく、年配の人の中には、これらの表現に幼稚な
印象を持つ人もまだ多いのでは。
日本語教育でも当然「おいしいです」や「暑いです」を教えている。さらに、否定形の「暑くありません」よりは「暑くないです」のほうが主に使われており、こちらを導入している。この「~ないです」の広まりは、本来「ます」を付ける動詞にまで影響を与えて、
特に否定形の「行きません」を「行かないです」、「食べません」を「食べないです」
など、こんな言い方が広まってきたのであろう。まさに「言葉は時代とともに」であり、
日本語教育でも、そろそろ両方教えたほうがよろしいかも。
この「行きません」と「行かないです」の違い、我々日本人は個人差や言い方にも
よるが、確かに何となく違いを感じる。強い決意などを示す場合は「二度と行きません」
になり、軽くおどけた雰囲気の場面では、「行かないです」のほうがぴったり。こんな
感じで使い分けている人が多いのでは・・・。
その上級者には、目上の人などにはやはり正式な「行きません」を使うほうがいいが、
カジュアルな場面では「行かないです」でも大丈夫。この傾向はさらにエスカレートし
そうで、日本語教師として、いつか「行くです」や「食べるです」を教える日が来るです、と思わず彼と笑ってしまった。




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