外から見る日本語 240
- 矢野修三

- 2022年5月24日
- 読了時間: 2分
バンクーバー新報 2022年5月掲載

☆ 「かってない円安」はダメ !
コロナ規制もほとんど無くなり、何となくホッとしているが、
昨今は、円安が激しく進行してまたまた大変。特に日本からの
年金で海外生活している我が身にとっては一大事である。
先日、日本の古き仲間達とオンラインで話す機会があり、円安に関して、大いに同情
された。そして、こんなことを問いかけられた。日本のニュースでリポーターが
「かってない円安」と話していたが、「かって」はダメだよね、である。
この「かつて」の発音だが、「かつて」なのか「かって」なのか、確かに、ちょいと
ややこしい。実は、小生も日本語教師になる前は、恥ずかしながら「かって」と、
促音の小さな「っ」で発音しており、先輩教師に注意された覚えがある。
さよう、正しい読み方は「かつて」であり、辞書や言葉のハンドブックなどにも
「かって」は載っていない。でも「かって」と発音している人も結構多い。いろいろ調べ
てみると、昔は促音を小さく「っ」と表記する習慣がなかったようで、
例えば「買ってきて」の場合でも、「買つてきて」と書き、それを「かってきて」と
発音していたとのこと。
そこで、この「かつて」も、当然「かつて」と書いてあるが、発音する場合は「かって」
だろう、と勝手(かって)に思う人が多く、方言なども絡んで、この言い方が広まった、と
言われている。なるほど。大いに納得である。
発音に関して、こんな経緯があるので、「かって、この辺りは森だった」や
「かってない世の中」など、仲間と話す場合にはあまり気にすることはないかも。
しかし、書くとなると、特にビジネス文書などには「かつて」と書かなければ間違いと
されるので要注意。もし新聞の記事などに「かってない円安」などと書いてあれば大問題
である。「かつて」の漢字は「嘗て」だが、確かに、ワープロに「かって」と入力しても
「嘗て」は出てこない。でもこの漢字は常用漢字に入っておらず、ひらがな書きが
ふさわしい。やはり表記も発話もしっかり「かつて」と意識したい。
また、こんな例文「彼女はかつて男だった」など、かつてはとても考えられない表現
だったが・・・、正に「言葉は時代とともに」を日本語教師として、強く感じる思いで
ある。
「かつてない円安」に対して、個人的には全く何もすることができず、
「もう勝手にして !」と開き直り、おしゃべりをお開きとした。




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